

大家だった住職からは「本格的な塾を共同経営しないか」という提案もあった。しかし、植野には塾で教えるよりも他にやりたいことがあった。じつは植野は、塾で教えていた頃に広く使われていた「教材」に大きな不満を覚えていた。生徒一人ひとりの学力に合う内容のものがほしいと思っても、なかなか見つからない。同じ出版社が発行している同じ科目の参考書なのに、中学1年の内容と2年、3年の内容にダブリやギャップがあり、1年から3年までを通して教えようとすると非常に使いにくい。おそらく学年ごとに担当者や執筆者が別で、ばらばらにつくっているからだろう。巷によい教材がないなら自分でつくるしかない1。植野は東京大学や早稲田大学の先生に声をかけ、まったく新しいタイプの教材を開発することにした。対象は中学生の英語と数学。ただし、どちらも中学1年から3年までの学習内容をテーマごとに分け、3年間分をセットで販売する。画期的なノンーグレード(無学年)方式の教材である。監修は英語を東京大学の鈴木博教授(当時)、数学を早稲田大学の高瀬礼文教授(当時)に依頼し、執筆も同一のグループに一貫して担当してもらうことにした。そうすれば、3年分を通して勉強したいときに重複がなく、重要なことを漏れなく効率的に学べるからである。こうして誕生した新教材『英語の才能開発』と『数学の才能開発』は、中学生やその両親、教師たちの問で大きな反響を呼び、『英語の才能開発』は東京都の推薦図書に指定されるまでになった。すると教材を使って勉強している子供や親だちから、「このやり方で教えてほしい」という声が上がり始めた。実際にその教材を使って教えてみれば、問題点や改善点が見えてくるかもしれない。
9月の模試では物理の偏差値が65、化学は72にまで伸びた。冬期講習の時期になると、「ハイレベル理系数学」の授業でさえ簡単に感じるようになっていた。東大理1がはっきりと視野に入ってきた。そして迎えたセンター試験では、数1A、数HB、化学が100点満点。物理でも96点を獲得した。総合点は950点満点中862点で、得点率90%、英数物理化学に限れば、じつに98%という正解率だった。センター試験が終わった後は、二次試験までほぼ1か月の問、ひたすら物理の問題を解き続けた。55段階でしっかりとした土台ができ上がっていたためか、どんな問題も楽に解くことができた。全部、同じ問題に見えてきて、「また、このパターンか」と感じるほどだった。東大合格を知った瞬間の気持ちは「信じられない!」に尽きるという。なかなか実感が湧いてこなかった。しかし、それまでの土谷くんの努力と成績の伸びを考えれば少しも不思議なことではなかった。じつは土谷くんは学校のサッカー部に所属していて、3年の夏の大会まで、週6日で練習していた。そのため部活を優先して、四谷学院ではできるだけ遅い時問帯の授業を取っていた。かえってそれがよかったのかもしれないと言う。「現役生にとって大切なのは、部活と勉強の切り換えと、どちらもがんばって楽しむこと。部活はあまり強いチームではなかっだけれど、とても充実していました。
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